みなさま、はじめましての方ははじめまして、そうでない方はお久しぶりです。 フリーランスエンジニアをやりながら JAIST で計算論的神経科学を研究している遠藤と申します。

僭越ながら 神経科学 Advent Calender 2019 のしょっぱなをいただきました。 この記事では、私が主催させていただいております 「(計算論的)神経科学を学ぶ会」 の紹介をさせていただきます。

そもそもなぜ神経科学を学ぶべきなのか ~私のモチベーションを例に~

この記事を読んでいる方の多くは、それぞれ神経科学に対するモチベーションを各々お持ちかと思いますが、そうでなくふと目に留まったという方もおられるのではないでしょうか。 そこで、私の考える神経科学を学ぶ意義・モチベーションを共有することで、そういった方々へ神経科学のすそ野を多少ぐいっと広げたいと思います。

2014年(あたり)から機械学習・AIブームが続いております。 いずれ終わるといわれながらも、その勢いはまだまだ衰えを見せません。 今回の AI ブームの立役者といえば、みんな大好きディープラーニング(深層学習)であることは疑いようのない事実でしょう。

釈迦に説法で恐縮ですが、ディープラーニングは多層のニューラルネットワークを用いてあれそれこれを解くという問題です。 ここで使われているニューラルネットワークとは、その名の通り我々が持つ神経細胞・ニューロンの活動をモデルに作られています。 これは、神経科学が AI に大きな影響を与えているという確たる証拠です。

他にも、神経科学と AI は非常に密接な関係を持っています。 このことについては、 Google DeepMind CEO の Demis Hassabis による Neuroscience-Inspired Artificial Intelligence という論文に詳しく紹介されています。 興味深い論文ですので、ぜひご一読ください。

人工知能は私たちの生活を大きく変えるポテンシャルを持ち、我々人類文明を大きく進歩させうる非常に重要な技術です。 この技術の発展を目指す上において、神経科学の重要性はこれまでもこれからも変わることはないでしょう。 そういった AI と神経科学の関係において、最近は AI 単独での進歩が続いています。 進歩が続くことはとてもいいことですが、 AI だけでの進歩ではどこか壁に突き当たる日がきっと来る考えています。 その時に状況を打破するカギになるのが、神経科学になるだろう。 それが私の予想です。 AI ブームの今だからこそ一度原点に立ち返って私たちは神経科学を学ぶべきだと思い、勉強会を企画運営することとしました。

勉強会の内容について

前置きが長くなりましたが、勉強会の内容について説明していきたいと思います。

勉強会の目的とターゲット層

この勉強会の目的は、神経科学に関するイベントを主催することで興味関心を持ってくれる人を増やし、日本を中心に世界で戦える神経科学コミュニティを作り上げることです。 既存の神経科学者のコミュニティも巻き込んで、みんなでワイガヤできる場を作りたいと考えています。

この勉強会は、神経科学に興味関心を持つすべての人に向けて開催しています。 主催者の私自身がずぶの素人であり、事前知識は問わずあらゆる人に対し門戸を開くコミュニティであろうとしています。

また、興味関心を持ってくれる人を増やす目的に沿って、AI研究者などまだ神経科学には触れていない人にもリーチしたいと考えています。

内容 (1): 各種読書会の実施

次に、具体的な勉強会の内容について説明したいと思います。

まず、神経科学に関する知見を深めるため、いくつかの本の読書会を行っています。 それぞれの本について紹介したいと思います。

テーマ本 (1): 田中宏和 著 「計算論的神経科学」

まずは、今年森北出版から発売された「計算論的神経科学」です。 この勉強会は、そもそもこの本の読書会としてスタートしたもので、思い入れのある本です。

この本の筆者である田中宏和先生は、何を隠そう私の指導教官でもあります。 もとは物理出身の先生らしく、運動制御を例として脳の働きについて論じている本です。 数式が非常に多く読むのは大変な本ですが、しっかり追いかけていきたいと思っています。

進捗としては、2章までは一応やった形になっています。

テーマ本 (2): Dayan & Abott 著 「Theoretical Neuroscience」

次にテーマ本として取り入れた本が「Theoretical Neuroscience」です。

田中先生の本はそれはそれで興味深い本ですが、神経科学に関する一般的な知識、例えばニューロンとは何かといった話題はあえて外してあります。 そこで、神経科学一般に関する知識を補完する目的で、 Theoretical Neuroscience を取り入れることにしました。

テーマ本 (3): Murphy 著 「Machine Learning: a Probabilistic Perspective」

次に取り入れた本が MLaPP です。 この本をテーマに取り入れたことには、2つの理由があります。

1つ目の理由は、MLaPP の読書会を通じて勉強会の参加者の層を厚くすることです。 この勉強会の目的である「興味関心を持つ人を増やす」ことを実現するために、AIに関心を持つ人を抱き込もうというのが狙いです。

2つ目の理由は、機械学習の方法論が神経科学においても重要であるということです。 例えば筆者が今研究でやっている脳波を使った BCI (Brain Computer Interface) の研究においては、脳波の分類に機械学習の技術を使っています。 他にも機械学習を学ぶことで嬉しいことがあるだろうという予想の元、機械学習に関する勉強も入れることとしました。

なお、この本は非常にボリュームのある本なので、細かい数式を追いきることを目的とするよりは、全体的に何を言っているかを追えるようになることを目標としようと思っています。

内容 (2): neuropaper.challenge 企画

読書会と並行して、研究トレンドを知り、そして新たなトレンドを創出するための取り組みとして「neuropaper.challenge」企画も進行しようとしています。

この企画は、 cvpaper.challengenlpaper.challenge さんを参考に、まずは論文の網羅的サーベイを行おうというものです。 ターゲットの学会としてはまずは NeurIPS を想定していますが、これに限りません。 2019年については準備の不手際でなかなか厳しい状況ですが、少なくとも2020年からはしっかりとできるように組織をまとめたいと思っています。

この企画を行うことについては、 cvpaper.challenge 主催の片岡様よりご賛同をいただいており、あとはやるだけです。

勉強会の今後の進め方について & お願い

ここまで、勉強会の内容について風呂敷を広げてまいりましたが、実は風呂敷を広げすぎてしまい私の手からこぼれてしまったという大変お恥ずかしい状況になってしまいました。 私の体調不良と相まって、10月末よりいったん休止中という状態になっております。

この状況につきましては、12月中にしっかり体勢を立て直したうえで、年明けをめどに仕切り直しをしたいと思っています。

仕切り直しをするにあたって、この記事をご覧の皆様にお願いがあります。 勉強会を進めるにあたって、会の運営に協力してくださる方々の力が必要です。 協力の方法については、いろいろあります。 例えば単に勉強会に来てくださる方、それでも大きな力になります。 さらに発表してくださる方などがいらっしゃりますと、主催者としては涙が出るほどうれしいです。

どんな形でも構いませんので、この記事をご覧いただいた皆様の中から、わずかでもお力添えをいただけますと幸いです。 もしご協力いただけるよ!という方がいらっしゃいましたら、勉強会の Twitter @cns_study 宛に一言メッセージをいただけませんでしょうか。 皆様からの応援を励みに、世界一のコミュニティづくりに邁進していきたいと思います。

それでは、勉強会で皆様にお会いできる日が来ることを願って。 お読みいただきありがとうございました。